ASDの代表的トラブル

この記事の内容

従来「アスペルガー症候群」と呼ばれていたASD(自閉症スペクトラム障害)の人は、その特性により人間関係でトラブルになってしまうことが多くあります。

ただでさえ、人づきあいは難しいものです。

特に、日本では聖徳太子の時代から「和を以て貴しとなす」の精神が受け継がれており、波風を立てない人間関係が求められます。

そのため、社会性とコミュニケーション能力に特性のあるASDの人は、想像を絶する生きづらさを抱えているのではないでしょうか。

この記事では、人間関係のトラブルといったような「ASDの代表的なトラブル」と「サポートのポイント」について簡単に記載します。

なお、代表的トラブルは次の6つです。

  • 深い人間関係を築きにくい
  • 会話が成立しにくい
  • こだわりが強い
  • 感覚過敏のため周囲から浮いてしまう
  • 完璧を求めすぎる
  • マルチタスクが苦手

発達障害の苦悩

最も多い苦悩は、周囲と違う自分の存在の感覚、就職難をふくむ生活の困難、対人関係の挫折などに関連する、切実な不安・絶望感である。自分が皆と違う人間で、皆に避けられ、家族に迷惑をかけ、将来の見通しが立たない悩みを語るうちに、しばしば真剣な希死念慮が訴えられる。

山下格・大森哲郎(補訂)(2022).精神医学ハンドブック[第8版] 日本評論社 p.234.

深い人間関係を築きにくい

ASDの生きづらさ

大人の発達障害における最大の悩みは、何といっても「人間関係」でしょう。

ただでさえ難しい「人間関係」が、ASDの特性である「社会性とコミュニケーション能力の乏しさ」ゆえにさらに難化してしまうわけです。

それはもう、耐えがたい生きづらさがあることと思います。

一般的に、良好な人間関係のなかで難しい仕事をするよりも、良好とはいえない人間関係のなかで簡単な仕事をする方が難しいものです。

よって、良好とはいえない人間関係のなかに常に身を置かねばならないASDの人にとって、人生が難しいものとなってしまうのは必然であろうと思います。

なぜ人間関係を築きにくいのか

人間関係を築きにくくさせているASDの特性には、次のようなものがあります。

  • 会話が一方通行になりやすい
  • 相手の表情などから相手の気持ちを読み取ることが苦手
  • 他人への関心が低いため、仲間意識を持ちにくい
  • 他人への関心が低いため、自分の都合が最優先
  • 場の空気を読むのが苦手
  • 共同作業が苦手
  • 突然の予定変更が苦手
  • 自分の興味があることや好きなことには強いこだわりを持つ
  • 融通が利かない

上記のなかでも、特に「一方的な会話」、「自分の都合優先」、「融通の利かなさ」が、丁度良い人間関係を築く障害になっているようです。

会話が成立しにくい

ASDの人の会話には、次のような特徴があります。

一方的に話す

自分の言いたいことを一方的に話し、相手の言動は無視するような態度を取ってしまいがちです。

そして、そのような特性は、当然ながら人間関係の悪化につながっていきます。

目を合わせない

会話中に、相手と目を合わせないことが多くあります。

そのため、会話の相手から「何を考えているのかわからない」と思われがちです。

表情から読み取れない

会話中の相手の表情、あるいは、身振り手振りの意味が理解できないことが多くあります。

会話の相手が笑っているのか怒っているのか、それを理解できない人もいるようです。

思ったことをそのまま口にする

社交辞令やお世辞が苦手です。

思ったことをストレートに表現してしまい、トラブルに発展することがあります。

冗談や比喩、あいまいな話が通じない

冗談などが通じない場合があります。

そのため、会話が途切れてしまったり、相手の伝えたいことが上手く伝わらなかったりします。

サポートのポイント

サポートの基本は、会話の特性を理解することです。

そのうえで、次のような点に注意します。

たとえば

  • 冗談や比喩を使わずに簡潔に話す
  • 「なるべく早めに」等のあいまいな表現は使わず、「今日の午後3時までに」等具体的に伝える
  • 一方的に話し続けるとき、場合によっては聞き役に徹する
  • 言ってはいけない言葉を具体的に示す など

こだわりが強い

ASDの特性による次のような態度が、周囲とのトラブルに発展することがあります。

好きなことには長時間没頭する

興味があることや好きなことには徹底して打ち込みます。

趣味に没頭するあまり、昼夜逆転の生活となってしまう場合もあります。

「ほどほど」が苦手

興味があることや好きなことに対しては、時間もお金も惜しみません。

毎月の給料をすべて趣味につぎ込むような人もいます。

何事も自分優先

他人への関心が低く、周囲に合わせようとはしません。

自分優先で動くため、自分勝手な人だと思われがちです。

相手の感情を推し量ることをせず、トラブルに発展します。

自分のルールを他人に押し付ける

自分のやり方やルールに強いこだわりがあります。

また、それを他人に押し付けようとするため、トラブルに発展します。

サポートのポイント

人それぞれの「こだわり」に応じて、それをやわらげる方法を考えます。

たとえば

  • 「自分のルールは自分の部屋の中でだけ」というように場所を限定する
  • 「趣味に費やす時間は1日●時間、お金は月に●円まで」等の決まりごとをつくり紙に書いておく

感覚過敏のため周囲から浮いてしまう

ASDの人は、五感(視覚・聴覚・嗅覚・味覚・触覚)が非常に敏感な場合があり、周囲の理解がないとトラブルに発展してしまうことがあります。

光がまぶしすぎる

たとえば、部屋の蛍光灯、パソコンの画面、日光などをとても眩しく感じる人がいます。

職場で適切な配慮を受けられないような場合、とても仕事になりません。

小さな音でもうるさい

たとえば、通勤途中の電車内のアナウンス、職場での電話音やひそひそ話が苦手な人がいます。

これが原因で頭痛やめまいが起き、出社できないような人もいるようです。

臭いに敏感すぎる

他人の体臭や口臭、香水やシャンプーの臭いにとても敏感な人がいます。

周囲の人がほとんど気にしないような臭いに対してもとても敏感で、ストレスが絶えません。

触れられることが苦手

嗅覚の敏感さから触れられることが苦手な人がいます。握手などとてもできません。

また、洋服の肌触りにとても敏感な人もいます。

極端に鈍感な場合もある

感覚過敏の人がいる一方、極端に鈍感な人もいます。

暑さや寒さに鈍感で一年中同じ服装の人もいれば、何かに集中して取り組んでいるときに大きな音がしてもまったく気にしないような人もいます。

サポートのポイント

人それぞれの感覚の過敏さに応じて、それを和らげる方法を考えます。

たとえば、職場において

  • 適切な配置転換
  • イヤーマフ、ノイズキャンセリングイヤホン、ヘッドホンの着用を認める
  • サングラスの着用を認める
  • 眩しさが軽減される場所への座席移動
  • ブラインドやカーテンの活用 など

完璧を求めすぎる

ASDの人は、ものごとを自分の思ったようにやりたいと思う傾向があります。

また、必要以上に時間をかけて完璧に仕上げる傾向があります。

そのために周囲と衝突したり、思い通りにならないときに感情的になってしまったり、トラブルに発展することがあります。

学生時代は優秀だった人も多い

得意科目で常に100点を取る等、学生時代には優秀だった人もいます。

ただ、思うように得点できなかったときに感情的になってしまい、周囲とトラブルになる人もいるようです。

臨機応変が苦手

学生時代に勉強が得意だった人も、社会人として仕事をするようになると、決まった答えがないような場面に多く出くわします。

その際、一般的には、上手く折り合いをつけて、その時々で最適と思われる選択をしていきます。

しかし、ASDの人は、このような臨機応変な対応を苦手とします。

そして、融通の利かないわがままな人とみなされて、トラブルに発展することがあります。

全体が見えない

仕事上、こだわる必要のない細かな部分に執拗にこだわり、本来注意を向けなければならない箇所に気を配ることができない人がいます。

全体を俯瞰することができず、細部にこだわるあまり、やがてはトラブルに発展するようなことがあります。

感情的になってしまう

ASDの人は、「自分は一生懸命がんばっているのに、周囲がまったく理解してくれない」という強いストレスを常に感じています。

このようなストレスが限界に達すると、パニックになってしまったり、目上の人に大声で食ってかかったりしてしまいます。

その結果、周囲から敬遠され、孤立してしまう人もいます。

サポートのポイント

たとえば

  • 大きなことを一気に任せず、小さなことを一つずつクリアしていくように指示を出す
  • 何時までに何をやるか、明確な指示を出す
  • 指示は口頭で伝えるだけではなく、文字にして示す
  • 不満やストレスについて、話し合いの場を設ける など

マルチタスクが苦手

ASDの人は、同時に二つ以上のことをすることが苦手です。

職場では当たり前のものとして求められる能力であるため、これを苦手とするASDの人は必然的に評価を落としていきます。

食事をしながらの会話が苦手

複数のことに同時に取り組むことを苦手とするASDの人にとって、食事をしながらの会話ですら難しいものとなります。

社会人としてそのようなことが求められる場面で一人黙々と食べていると、トラブルに発展しかねません。

電話をしながらメモがとれない

職場で当たり前のこととして求められることですが、ASDの人にとっては非常に難しいことです。

まったくメモできなかったり、メモを取ること自体を忘れてしまったり、注意されても改善できないためトラブルに発展しがちです。

作業をしながら人の話を聞くことができない

これも職場で当たり前のこととして求められることですが、ASDの人にとっては難しいことです。

作業をしながら説明を受けてもまったく理解できないため、同じことを何度も質問し、評価を落とすことになります。

同時に二つの指示を出されると混乱する

同時に二つのことを言われた場合、どちらを優先すればよいのか分からず、途方に暮れてしまうことがあります。

どちらも手付かずというような場合、後々トラブルに発展しかねません。

恋愛と勉強・仕事の両立が難しい

思春期以降、異性が気になると、そればかりに気を取られてしまう人もいます。

仕事が手につかず、仕事中にもスマホばかり気にしてしまい、評価を落とすことにつながります。

サポートのポイント

たとえば

  • 指示を出すときは一つずつ出す
  • 作業内容によって時間を区切る(たとえば、 「今日中にAとBとCをやるように」という指示ではなく、「●時~●時にAの作業、●時~●時にBの作業、●時~●時にCの作業」という指示にする)
  • 仕事の進め方を簡略化する
  • 指示は口頭で伝えるだけではなく、文字にして示す
  • 作業に取り組む時間と話を聞く時間をしっかり分ける など

おわりに

障害は、ASDの人自身に生じているのではなく、その人と社会との接点に生じます。

お互いの歩み寄りによって「障害」の少ない社会にしていきたいものですね。

参考図書

『ASD(アスペルガー症候群)、ADHD、LD 大人の発達障害 日常生活編 18歳以上の心と問題行動をサポートする本』宮尾益知/監修 河出書房新社

『精神医学ハンドブック 医学・保健・福祉の基礎知識 第8版』山下格/著 大森哲郎/補訂 日本評論社

参考リンク

この記事を書いた人

群馬県前橋市の精神保健福祉士・社労士 鈴木雅人
精神保健福祉士・社会保険労務士
鈴木雅人
氏名鈴木 雅人(すずき まさと)
生年月日1980年(昭和55年)4月1日
国家資格社会保険労務士 第10230004号
精神保健福祉士 第26879号
加入団体群馬県社会保険労務士会
群馬県精神保健福祉士会
群馬県精神保健福祉協会
家族妻と長男
出身地 群馬県前橋市
学歴東海大学体育学部中退
文教大学人間科学部卒業
座右の銘人間万事塞翁が馬

事務所概要

事務所名若宮社会保険労務士事務所
代表者鈴木雅人
所在地群馬県前橋市日吉町4-14-7
電話番号080-7712-2518
メールinfo@wakamiya-sr.com
定休日不定休