ASDの人は「あいさつ」のルールを決めよう

この記事の内容

ASDの特性は、「社会性の乏しさ」や「コミュニケーション能力の障害」です。

この特性ゆえに、「あいさつ」や「お礼」を言えないことが多くあります。

それによって、社会人としての評価を下げてしまう人もいることでしょう。

ただ、「あいさつ」や「お礼」といっても、そこには様々なシチュエーションがあり、様々なバリエーションがあります。

いきなりきちんとできるようにはなりませんので、まずは簡単なルールを決め、それを守るようにしてみてはいかがでしょうか。

発達障害の苦悩

最も多い苦悩は、周囲と違う自分の存在の感覚、就職難をふくむ生活の困難、対人関係の挫折などに関連する、切実な不安・絶望感である。自分が皆と違う人間で、皆に避けられ、家族に迷惑をかけ、将来の見通しが立たない悩みを語るうちに、しばしば真剣な希死念慮が訴えられる。

山下格・大森哲郎(補訂)(2022).精神医学ハンドブック[第8版] 日本評論社 p.234.

あいさつできないASD

言うタイミングがわからない

一般的に、誰もが意識せずにしている「あいさつ」や「お礼」ですが、ASDの人はこれらが苦手な傾向にあります。

特性である「社会性の乏しさ」により、それを言うタイミングがわからない場合が多いようです。

職場では

出勤時や退勤時、「おはようございます」や「おつかれさまでした」等のあいさつは、社会人としての最低限のマナーです。

場合によっては、多少仕事ができなくても、あいさつがしっかりできる人であれば、大目に見てもらえるようなこともあります。

理不尽なようですが、「仕事はすごくできるけど、あいさつができない人」より、「仕事は多少できないけど、あいさつができる人」の方が、周囲からのウケは良くなります。

「会社は仕事をする場所だから、あいさつなどしなくとも、仕事さえきちんとしていれば何も問題ない」という考え方もあるでしょうが、実際はそうではありません。

会社組織はひとつの社会であり、そこに属している以上、最低限の社会性(自分を周囲の人たちに合わせること)が求められるのです。

結局のところ、人間は感情の動物です。

そのため、会社での仕事のしやすさも、周囲に好かれるか嫌われるかで変わってきます。

たとえば、先輩や同僚に仕事を手伝ってもらった際、「ありがとうございます」の一言も言えないような人だったらどうでしょうか。

そして、その人が出勤時にも退勤時にもあいさつをしないような人だったら……

仮にその人が仕事のデキる人だったとしても、おそらく、誰からも相手にされず、ただただ孤立するだけになってしまうのではないでしょうか。

言葉遣いも難しい

ASDは言葉の使い分けが難しい

ASDの人は、相手や状況によって言葉を使い分けることが難しい傾向にあります。

上司や社外の関係者に対し、友人と話すときと同じような言葉遣いをしたりします。

そのようなことをしていると、当然、トラブルに発展しかねません。

悪気があるわけではない

ASDの人は、なにも悪気があって、あいさつをしなかったり不適切な言葉遣いをしているわけではありません。

特性ゆえに、自然体で過ごしていれば自ずとそうなってしまいます。

しかし、多くの人にとって、それは非常識で不自然なことです。

そのため、摩擦が生じ、いじめ、孤立、退職へと状況が悪化していってしまうのです。

会話のマナーを「習慣」として覚える

理屈ではなく「ルール」として覚える

ASDの人たちが会社で周囲と上手くやっていくには、適切なあいさつや言葉遣いを覚える必要があります。

その際、「なぜあいさつが必要なのか」、「なぜ言葉遣いに気を付けなければならないのか」という理屈はひとまず置いておきましょう。

理屈がどうこうというより、ルールとして覚えてしまった方が混乱が少なくなるはずです。

あいさつのルール

あいさつは自分からする

知り合いに会ったら会釈する

場所や言葉をあらかじめ決めて、出勤時や退勤時のあいさつをする(たとえば、退勤時はドアの前で「お先に失礼します」と言う等)

お礼や感謝のルール

手伝ってもらったら「ありがとうございます」と言う

わからないことを教えてもらったら「ありがとうございます」と言う

お土産のお菓子をもらったときも「ありがとうございます」と言う

頼みごとをするときのルール

頼みごとをする前に、相手の都合を聞く

相手の都合を聞くときのセリフをあらかじめ決めておく(たとえば、「今お時間よろしいでしょうか?」)

頼むときは「お願いします」と言う

頼みごとを聞いてもらったら、「ありがとうございます」と言う

おわりに

円滑な人間関係を保つためには、多くの人が常識としてやっていることを自分も同じようにやる必要があります。

そして、「あいさつ」や「お礼」、「適切な言葉遣い」はまさにそれであり、これができないと、「非常識な人」として距離を置かれてしまいます。

ASDの人にとって、その時々の状況に応じて声のトーンや大きさ、言葉遣いを変えることは難しいかもしれません。

ですが、出社したらあいさつをするという「ルール」を決めてそれを守ることは、できるのではないかと思います。

まずは、無理なくできることから始めてみてはいかがでしょうか。

参考図書

『ASD(アスペルガー症候群)、ADHD、LD 大人の発達障害 日常生活編 18歳以上の心と問題行動をサポートする本』宮尾益知/監修 河出書房新社

『精神医学ハンドブック 医学・保健・福祉の基礎知識 第8版』山下格/著 大森哲郎/補訂 日本評論社

参考リンク

この記事を書いた人

群馬県前橋市の精神保健福祉士・社労士 鈴木雅人
精神保健福祉士・社会保険労務士
鈴木雅人
氏名鈴木 雅人(すずき まさと)
生年月日1980年(昭和55年)4月1日
国家資格社会保険労務士 第10230004号
精神保健福祉士 第26879号
加入団体群馬県社会保険労務士会
群馬県精神保健福祉士会
群馬県精神保健福祉協会
家族妻と長男
出身地 群馬県前橋市
学歴東海大学体育学部中退
文教大学人間科学部卒業
座右の銘人間万事塞翁が馬

事務所概要

事務所名若宮社会保険労務士事務所
代表者鈴木雅人
所在地群馬県前橋市日吉町4-14-7
電話番号080-7712-2518
メールinfo@wakamiya-sr.com
定休日不定休